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Nishi-Chayagai*2
(Seijiro Shimada)

「ひがし」に対する反骨心が「にし」の魅力

金沢を彩る観光地のひとつに、にし茶屋街があります。1820年(文政3年)にひがし茶屋街とともに加賀藩から公許された茶屋街で、現在は犀川沿いの閑静な住宅街に佇んでいます。

にし茶屋街は浅野川沿いの「ひがし」とともに金沢のお座敷文化を牽引してきた存在でした。現在も5件のお茶屋に19名の芸妓さんが在籍し、藩政期から受け継がれてきた金沢の伝統芸能を今に伝えています。

茶屋街の周囲に塀が張り巡らされ『西の廓』と呼ばれていた時代から、にし茶屋街には、金沢で最高の格式を誇った「ひがし」に対抗するように、伝統に縛られない進取の気性が育まれてきました。

メインストリートから少し入ったところには、にし茶屋街で営業している現役のお茶屋と、それぞれのお茶屋に在籍する芸妓さんの名前が張り出されているのですが、その中には「ぽん太」や「ゆめ吉」など、芸妓さんの名前とは思えないような個性的な名前が見られます。

前置きが長くなりましたが、にし茶屋街は大正時代に破天荒な人生を送った大ベストセラー作家を生み出しました。その作家の名を島田清次郎と言います。

にし茶屋街の入口に置かれている『地上』の記念碑

にし茶屋街の入口に置かれている『地上』の記念碑

大ベストセラー作品『地上』で時代の寵児に

島田清次郎は1899年(明治32年)に生まれ、 1930年(昭和5年)にわずか31歳の若さでこの世を去った作家です。

島田清次郎と聞いてもピンとこない人が大多数だと思います。現在の石川県白山市(旧美川町)で生を受けた島田清次郎は、幼い頃に父親が亡くなったことから、母親の実家で祖父が経営していた『西の廓』の吉米楼に移り住みました。

しかし、祖父が事業に失敗したことから母親と二人で極貧生活を送ることになり、世の不条理を間近で見ることになった島田清次郎は、良くも悪くも反骨心の強い性格を形成していきました。

そのような生活環境の中でトルストイやドストエフスキーに触れ、10代の半ば頃から自らも小説を書くようになります。

1919年(大正8年)に20歳になった島田清次郎が出版した『地上』は、第一部から第五部までの合計で50万部を超える大ベストセラーとなりました。そして、第一次世界大戦後に広まった大正デモクラシーの風潮とも相まって、時代の寵児となりました。

ちなみに大正時代の文芸界では、倉田百三の『出家とその弟子』、賀川豊彦の『死線を越えて』、島田清次郎の『地上』の3作が三大ベストセラーとされています。

20歳過ぎの若さで手にした莫大な印税は、島田清次郎を傲慢な人間へと変えていき、女性スキャンダルもあって急速に人気が失墜していきます。さらに精神にも異常をきたすようになり、31歳の若さでこの世を去りました。

余談ですが、島田清次郎は旧制金沢二中に進学し、叔父の勧めから商業高校に転校するまでの間は優秀な成績を収めます。旧制金沢二中は現在では金沢錦丘高校という名称になっていますが、同校は直木賞作家の唯川恵さんと、芥川賞作家の本谷有希子さんの出身校です。

清次郎が育った吉米楼は西茶屋資料館となっています

清次郎が育った吉米楼は西茶屋資料館となっています

西茶屋資料館では島田清次郎の足跡が常設展示

文学通と言われる方でしたら島田清次郎の名前は良くご存じだと思いますが、彼の生前の行動が文壇から反発を招いたこともあって、現在の文学界で島田清次郎の名前を目にすることはほとんどありません。

そのような状況にあっても、島田清次郎が育った「にし茶屋街」では彼の功績を今に伝えています。

まず、茶屋街の入口には「にし」の歴史を伝える説明パネルとともに、約100年前に出版された『地上』の記念碑が設置され、本文の一部が抜粋されています。

「あゝ、この感情、この真理、これは自分一人ではあるまい。自分のこの涙は万人の涙であろう。自分は自分一人の寂しさに泣いていてはならない。あゝ、自分はどうなっても構わない。願くば、今、ひしひしと身に迫り感じる万人の涙の為に戦おう!

あゝ、自分には万人の涙にぬれた顔を新しい歓喜をもって輝かすことは出来ないのだろうか。自分の生はそれのみの為の生涯であり、自分の使命はそれよりほかにはない!あゝ、この大いなる願が、自分の一命を必要とするならば、自分は死ぬべき時に死にもしよう!」

また、にし茶屋街の一番奥には島田清次郎が幼少期を過ごした吉米楼の建物が「西茶屋資料館」となっており、その1階に島田清次郎の足跡が常設展示されています。

西茶屋資料館の1階には清次郎の足跡が展示されています

西茶屋資料館の1階では清次郎の足跡が紹介されています

西茶屋資料館ホームページ(金沢市観光協会)


現役のお茶屋 | 島田清次郎 | スイーツ | 華の宿


にし茶屋街への行き方

近江町市場から 金沢21世紀美術館から | 長町武家屋敷跡から


にし茶屋街の周辺にある「観光してみたいかも」スポット

室生犀星記念館 | 辻家庭園 | W坂


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にし茶屋街からは長町武家屋敷跡や金沢21世紀美術館へも徒歩圏内です

にし茶屋街は今風の街並みに佇む小粋な芸処