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建築家の谷口吉生さんが死去。代表作は鈴木大拙館

2024年12月21日~23日の3日間、北國新聞の一面トップは、16日に87歳で亡くなられた金沢ゆかりの建築家・谷口吉生 (たにぐち よしお) さんの記事でした。

私の記憶では、金沢ゆかりの人物の死去が北國新聞の一面トップになったのは、2023年11月の陶芸家の大樋陶冶斎 (おおひ とうやさい/十代目・大樋長左衛門) さん以来のことです。

金沢の人たちは、谷口吉生という名前は知らなくても、鈴木大拙館を設計した人だよと教えれば多くの人が頷きます。金沢の街並みを彩る谷口建築の数々は、金沢の人たちの心に潤いを与えてきました。

鈴木大拙館



幼少期に金沢市に疎開

北國新聞の記事によると、谷口さんは、金沢市出身の建築家・谷口吉郎氏の長男として1937年 (昭和12年) に東京で生まれました。幼少期の3年間、金沢市寺町にあった父・吉郎氏の生家に疎開し、十一屋小学校に通いました。

慶応大学卒業後、米国に渡り、ハーバード大学で建築を学びました。帰国後は東大都市工学科の丹下健三研究室で研究を続けました。1979年に谷口建築設計研究所を東京に開き、金沢市立玉川図書館を父と共同設計しました。

その後、土門拳記念館 (山形県酒田市)、資生堂アートハウス (静岡県掛川市)、豊田市美術館 (愛知県豊田市)、猪熊弦一郎現代美術館 (香川県丸亀市)など、美術館や博物館の設計を多く手がけました。

金沢市立玉川図書館

特徴はコンクリートと水

谷口さんは、1997年にニューヨーク近代美術館 (MoMA) の増改築コンペで設計案が選ばれ、世界的な名声を揺るぎないものとしました。

石川県および北陸地方では、鈴木大拙館 (2011年)、加賀片山津温泉総湯 (加賀市、2012年)、金沢建築館 (2019年)、富山新聞高岡会館 (2022年)などを設計しました。なお、谷口さんは金沢市の名誉市民となっています。

谷口建築の特徴は「コンクリートと水」です。直線状に配された剝き出しのコンクリートの傍らには水辺があり、水面にはコンクリートの建物が映し出されています。晴れた日には青空が映り込み、雨の日には雨音が水面に響きます。

シンプルなのに奥深い。どのアングルからでも最高の撮影スポットになり、その場所にずっと佇んでいたくなる。それが谷口建築の特徴です。

ずっと佇んでいたい金沢建築館の「水底」

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鈴木大拙館では“無の境地”を創出

金沢で、谷口さんの代表的な建築作品と言えば何といっても鈴木大拙館です。高名な仏教哲学者の鈴木大拙氏を記念したミュージアムで、仏教的な“無の境地”を演出した外観と内装は欧米からのお客様に大人気です。

北國新聞に掲載されていた鈴木大拙館の木村館長の追悼コメントによると、谷口さんは鈴木大拙館の設計が一番難しかったのだそうです。

鈴木大拙館は、2015年の北陸新幹線の開業後に入館者数が増えており、今では、全国の“金沢通”を自認する人たちが必ず挙げる推しスポットです。逆の見方をすると、鈴木大拙館に行ったかどうかが金沢通か否かの試金石とも言えます。

鈴木大拙館の思索空間
鈴木大拙館の水鏡の庭では波紋を演出

鈴木大拙館-水鏡の庭で体感する“無の境地”

金沢建築館は谷口家の跡地

2019年にオープンした谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館は、谷口家の跡地に建てられた日本で唯一の建築専門のミュージアムです。もちろん、設計は谷口吉生さんが行いました。

戦時中に吉生さんが疎開した谷口家があった寺町は、国の重要伝統的建造物群保存地区 (重伝建) に指定されているのですが、シンプルなコンクリート造りの外観は、重伝建の景観に自然な雰囲気で溶け込んでいます。

建築にご興味がある方は、鈴木大拙館と金沢建築館をセットで回る方が多いみたいです。移動では金沢周遊バスが便利です。鈴木大拙館は本多町、金沢建築館は寺町が最寄りのバス停で2つ目です。ちなみに、歩いても20分ほどの所要時間です。

なお、いずれのミュージアムも毎週月曜日 (祝日の場合は翌平日) が休館日です。

谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館

金沢建築館-国内でも珍しい建築専門ミュージアム

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父・吉郎氏が提唱した景観条例

金沢建築館の正式名称が「谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館」となっていることからも分かるとおり、金沢では、亡くなられた谷口吉生さんとともに、お父様の谷口吉郎氏も金沢に大きな貢献をされています。

前述のとおり、谷口吉郎氏は金沢市の寺町に生まれた世界的な建築家です。あのホテルオークラのロビーは吉郎氏が設計しました。また、帝国劇場の客席&ロビーや東京国立近代美術館の設計でも知られ、1973年に文化勲章を受章しました。

父・吉郎氏は、日本中の都市が“ミニ東京”へと突き進んでいた1960年代に、金沢でも古い建物が解体されていくことを憂い、当時の金沢市長に景観保全を求めました。そして、1968年 (昭和43年) に「金沢市伝統環境保存条例」が制定されました。

いわゆる「景観条例」です。実は、景観条例の制定は全国で金沢市が第一号です。京都よりも先に制定されました。

吉郎氏作の赤坂離宮・游心亭が金沢建築館で再現

街並みに溶け込む谷口建築

金沢は職人の街です。そのこともあって、何事にも外観から入る市民性を持っています。そして、一点ものが大好きな街です。

私は、金沢にお越しの方への観光ガイドをすることがありますが、時折「金沢って高いビルがないですね」とおっしゃる方がいます。高いビルディングによって景観を壊さない金沢市の方針は、谷口吉郎氏から得た知見なのでしょう。

亡くなられた吉生さんも、お父様の理念をしっかりと受け継がれていたのだと思います。谷口吉生さんの建築は景観を邪魔することはありません。街中に佇んでいます。玉川図書館も、鈴木大拙館も、金沢建築館も、静かに佇んでいます。

谷口吉生さんのご冥福をお祈りいたします。

街並みに溶け込む金沢市立玉川図書館

鈴木大拙館-水鏡の庭で体感する“無の境地”

金沢建築館-国内でも珍しい建築専門ミュージアム

Kanazawa Topics

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金沢観光ガイド 南 武志

観光客の方が「ひがし茶屋街」の最寄りのバス停に並ばれているのを見て、兼六園も近江町市場も歩いて10分なのに…と思ったことが、このサイトをはじめたキッカケでした。 金沢の街は歩いて回れます。自分だけの観光プランで城下町・金沢を満喫してください。

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