2017年5月12日付の北國新聞に、金沢の三文豪の一人である泉鏡花の師で、小説『金色夜叉』で知られる尾崎紅葉の直筆の書簡が、泉鏡花記念館で初公開されるという記事が掲載されていました。
記事では、紅葉だけではなく、鏡花ら門下生もお世話になった実業家との物心両面にわたる交流がうかがえる資料と言える、と伝えています。
所有者から泉鏡花記念館への鑑定依頼で判明
書簡の内容は、紅葉やその弟子らが主宰する俳句誌に資金援助した実業家に対するお礼の手紙です。
1902年(明治35年)9月19日に尾崎紅葉が出した手紙は、旧東京株式取引所の理事長などを歴任した杉野喜精氏に宛てられたもので、紅葉が主宰する俳句誌の資金援助として、杉野氏が10年分の購読料を前払いしたことへのお礼文がしたためられたものです。
明治文学研究者の柳田泉氏が1950年(昭和25年)にまとめた資料に手紙の写しがありますが、現物は長らく行方不明となっていました。
2017年1月、東京都内に住む杉野氏のひ孫から泉鏡花記念館に調査依頼があり、穴倉玉日学芸員が調べたところ、尾崎紅葉の手紙であることが判明し、約70年ぶりに現物が確認されました。
紅葉は手紙で自身の近況にも触れており、翌年に胃がんと診断される胃病について「未だに食後の腹具合よろしからず、日夜、弓をひき消化を助くる」と書かれているそうです。
鏡花は後に、紅葉の放った弓を拾い集めるのが大変だったと書いており、手紙から二人の師弟関係が垣間見えると記事では伝えています。
また、紅葉は手紙で「金色夜叉夫人」と呼ばれるほど有名な紅葉ファンだった和達瑾さんにも触れています。
和達さんは鏡花が小説『紅雪録』や『婦系図』の登場人物のモデルにした女性で、手紙の半年前、旧名古屋銀行の支配人だった杉野氏と、旧名古屋電話局長を夫に持つ和達さんは、名古屋を訪れた鏡花を自宅に留めて厚遇しました。
紙面には、白布を敷いたテーブルの上に巻物の手紙が広げられている写真が掲載されていました。
なお、手紙は5月26日~9月24日に開かれる企画展「1907 明治40年の鏡花」で展示される予定です。
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尾崎紅葉から最も可愛がられた弟子が鏡花
文学ファンにとっては尾崎紅葉の直筆の書簡を目にできるのは、とても興味深いことと思います。
私が今回の記事を読んで嬉しかったのは、手紙の所有者である杉野氏の曾孫さんが泉鏡花記念館に鑑定を依頼してきたことです。泉鏡花記念館が全国的に信頼されていることの証しですよね。
さて、泉鏡花とともに金沢の三文豪の一人に数えられる徳田聲声も尾崎紅葉の門下生の一人です。鏡花と秋聲は、金沢市立馬場小学校の一学年違いで、少し調べてみるとお互いに顔は知っている間柄だったようです。
尾崎紅葉の自宅にいた泉鏡花は、ある時、紅葉に弟子入りを志願しに来た一人の青年を玄関口に迎えます。その青年が徳田聲声でした。
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