2020年4月23日付の北國新聞に、金沢市ではひがし、にし、主計町の三茶屋街のお茶屋の廃業を防ぐため、芸妓1人につき奨励金24万円を交付するという記事が掲載されていました。
また、4月25日付の北國新聞にも芸妓さんへの公的支援の記事があり、石川県が芸妓さんへの緊急支援として、三味線や太鼓などの楽器をはじめ、かつらの結い直し、扇子や足袋などの道具にかかる維持費を1人30万円支給するとのことです。
少し古い話題になりますが、3月10日付の北國新聞に、金沢市がお茶屋の女将の家賃支払いを支援するという記事が掲載されていました。女将が建物や土地の所有者に対して支払う家賃が対象で、市では費用の2分の1を、300万円を上限として負担します。
金沢市では、既にお茶屋の外観補修や内装改修などに対する助成の他、事業継承に必要な借入金の利子支払いを全額補給する制度を設けており、新たなメニューとして家賃補助を追加します。
お茶屋の数は減少傾向にあり、ここ3年間は、2017年に「西泉家」(にし)、2018年に「藤とし」(ひがし)、2019年に「山とみ」(ひがし)と、1年に1軒のペースで廃業があり、現在は、ひがし=5軒、にし=5軒、主計町=4軒の計14軒となっています。
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市民から反発が出るのは身近ではないから
私は芸妓さんへの支援策には賛成です。今のような危機に際しても、伝統芸能を守る姿勢を打ち出したことは金沢らしいと感じます。ただし、ツイッターには、金沢市民からの「なぜ、芸妓さんだけ」という批判的なツイートが多く見られます。
私は大学進学からの30年間を東京で暮らして故郷に戻ってきましたので、伝統芸能は守っていかなければと普通に思いますが、もし、私に金沢以外で暮らした経験がなければ、芸妓だけを特別扱いするなと言っていたかもしれません。
ちょうど200年前の1820年に加賀藩から公許された「ひがし茶屋街」「にし茶屋街」と、明治に入ってから形成された主計町茶屋街は、長くお金持ちの旦那衆の女遊びの場として営まれてきたことから、金沢で生まれ育った人の大多数は芸妓さんを見たこともありませんし、お座敷遊びの経験のある男性も極めて少数です。
ちなみに、私も茶屋街から遠く離れた郊外の新興住宅街で育ちましたので、恥ずかしながら、金沢に芸妓さんがいることすら知らずに上京しました。その私でも、京都に舞妓はんがいることは知っていました。
このように、金沢では芸妓さんは馴染みのない存在だったことから、苦しいのは芸妓さんだけではないでしょ!という厳しい意見が出るのです。
今こそ芸妓さんを身近な存在に
全国各地の花街にあるお茶屋と同様に、金沢の三茶屋街(ひがし、にし、主計町)のお茶屋でも一見さんお断りです。いきなりお店の格子戸を開けて「いいですか?」と言っても2階のお座敷に上がることはできません。
金沢の三茶屋街が今も一見さんお断りの営業を続けている理由は、お客さんの支払いが、いわゆる“ツケ”だからです。ツケですと一見のお客さんの中にはお金を払わずに逃げていく人も出てきますよね。だから一見さんをお断りするわけです。
お客様にお座敷で財布を開かせずに、楽しい気分のままお店を後にしていただくのが、金沢のお座敷遊びの“粋”なのです。
しかしながら、今のシステムでは、事業で成功した実業家も、芸妓さんに憧れる女性も、社員旅行で金沢を満喫したいと考えている企業も、お茶屋の常連客からの紹介がなければ芸を見ることはできません。
近年は、定期的に低料金でお座敷体験ができる催しが開かれていますし、毎年9月には金沢芸妓が総出演する「金沢おどり」で踊りや演奏を楽しむことができるとはいえ、やはり普通の遊び方でお座敷体験をしたいですよね。
私はそろそろ金沢の茶屋街も一見さんお断りの営業形態を見直す時期なのではないかと思っています。
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なぜお茶屋の経営が苦しくなったのか
金沢市が芸妓さんへの支援を行なうのは、普通に考えて、お茶屋の経営が苦しいからですよね。昭和初期まで活況を呈した3つの茶屋街が廃れていった原因は2つ考えられます。
まず、最も大きな理由は、男たちの遊びの主流がお茶屋遊びからクラブ遊びへと移ったことでしょう。確かに、着物姿の女性が隣に座るよりは、スカートの女性が隣に座る方が男のスケベ心をくすぐりますよね(笑)。
戦後、北陸随一のクラブ街が形成された片町は、今も金沢で唯一のナイトタウンとして栄えています。
大旦那がいなくなったことがすべて
金沢の茶屋街が衰退していったもうひとつの理由は、大旦那がいなくなったことです。
明治後期から大正にかけて、金沢には横山家という大富豪がいました。金沢出身の女流作家である井上雪さんの著書『廓のおんな』には、ひがし茶屋街のお茶屋の勘定は、ほとんどが横山さんのツケだったと記されています。
もし、今も大旦那がいれば、新型コロナ騒動などどこ吹く風だったでしょう。茶屋街の女将たちの前に1億くらいポンと置いて「しばらくはこれで食いつなげばいい。日本中の花街に客がいない間に芸を磨き、自分を磨いてくれ」と言えば何の問題もないのですよね。
今の金沢の旦那衆が、いざという時に頼りにならないことが分かったのですから、もう「一見さんお断り」にこだわることもないでしょう。私はそう思います。
お座敷は芸妓さん1人当たり4万円
私は正直に言いますとお座敷遊びをしたことはありません。ただ、お座敷の料金は、芸妓さん一人につき花代が4万円という話しは聞いたことがあります。時間は線香2本で90分とのことです。
通常のお座敷遊びでは、三味線を弾く地方と呼ばれる芸妓さん1名と、踊りを舞う立方の芸妓さん2名の計3名が基本です。そこに料亭からの仕出し料理が付きますので、お座敷を満喫するには20万くらいかかる感じです。
金沢は都市型テーマパーク!
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旦那の遊興場から伝統芸能の披露の場へ
一見さんお断りの慣習を捨て、永遠に一見さんとなるお客さんもokですよという営業方針に変える際には、料金プランも分かりやすいものにしなければならないでしょう。
私が考える料金プランは以下のとおりです。
◆新料金プラン
基本料金 12万円(お客様の人数にかかわらず均一料金)
<明細>
・芸妓さん3名(立方2名+地方1名)
・飲み物+軽食付き
・宴席時間 90分
・女性のお客さまも大歓迎
※料亭から仕出し料理を調達する場合は実費とします。
※女性のみのグループは基本料金を半額の6万円とします。
※お客様の数は1~10名様までとし、以後は1人増えるごとに10,000円の追加料金となります。14名様以上になりましたら芸妓さんが1名プラスされます。
会計については、どうしてもお座敷で財布を開かせることは避けたいとのことでしたら、指定の銀行口座への先払いとすることも考えられます。
お客様の人数にかかわらず均一料金
この料金プランを導入する場合の基本的な考え方は、お客さんの数にかかわらず統一料金とするところが第一のポイントです。つまり大人数ほどお客様1人当たりの料金が少なくなるわけです。
基本料金の12万円だけのコースにして10名で予約すれば、1人当たり12,000円です。この金額ならサラリーマンでも払えそうです。また、OLさんが芸妓さんの舞いを見学することもできますし、その中から次の新花さんが生れるかもしれません。
さらには、ぜひ金沢芸妓を見たいという観光客にお座敷を提供できますし、金沢へ社員旅行で来る企業が宴席を設けることもあるかもしれません。
もちろん、これまで茶屋街を支えてきた旦那衆を排除するわけではありません。古くからの常連の旦那衆は芸を見る眼は肥えているでしょうから、これまでどおり来店してもらって、芸妓さんの上達の度合いをチェックしてもらえばいいでしょうね。
一見さんお断りのスタイルを改める目的は、夜のお座敷を、旦那衆の遊びの場から伝統芸能の披露の場へと変えることです。そして、芸妓さんの芸をより身近な伝統芸能にすることです。
新花さんの半数が既に廃業
2015年3月に開業した北陸新幹線は、金沢に絶大な新幹線効果をもたらしました。金沢は、日本の鉄道史において、史上最も新幹線の恩恵を受けた街、あるいは史上最も長く新幹線効果が続く街と評されています。
新幹線効果のひとつに、茶屋街で新人芸妓(新花)が数多くお座敷デビューしたことが挙げられます。2015年3月以降に14名の新花さんがお披露目されました。地元出身者は3名のみで、残りの11名は県外から金沢への永住を決意した女性でした。
しかし、残念ながら、14名のうちすでに半数の7名が廃業しています。地元出身の3名は全員が早々に花柳界から去り、県外から永住した新花さんも4名が芸妓という職業を辞めてしまいました。
金沢では、芸妓とはいかがわしい職業とされてきましたので、地元の女性は世間体もあって長続きしなかったのかなと思えますが、県外からの新花さんは、覚悟を決めて金沢に移住してきたはずですので、それでも去っていくというのは問題ですよね。
県外から金沢へ移住した人たちは、皆さん異口同音に「金沢おどり」に憧れて芸妓になろうと決心したと地元メディアに語っています。現実の芸妓のお仕事は、芸を磨くという理想とはかけ離れたものだったのかもしれません。
金沢の三茶屋街の芸妓という職業が、文字通り伝統芸能を披露する職業となれば、県外からの新花さんの定着につながるのではないでしょうか。
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