金沢の旧家庭園#5
加賀百万石の城下町・金沢には旧家や庭園が多く残っています。そして、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定され、現在は閑静な住宅街となっている寺町には「金沢の最後の名所」と称される庭園があります。それが辻家庭園です。
場所は犀川の下菊橋南詰から長良坂を上り、坂上の路地を左手に入ったところに位置しています。寺町は金沢の中でも山の手と言える上品な住宅街で、閑静な雰囲気に溶け込むように辻家庭園の板塀が続きます。
ちなみに下菊橋は犀川大橋から2つ上流の橋です。
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客人を迎える瀟洒な門構え
建物に入ると右手に高級感を漂わせるフロントがあり、コンシェルジュから丁寧な説明があります。入園料は見学のみが500円で、抹茶&お茶菓子付きが1,000円です。営業時間は夏季が正午から午後6時、冬季が正午から午後5時となっています。
邸内には群青の間、松の間、梅の間、離れの間があります。松の間と梅の間については、お食事のお客様が入っている時は室内を見学することができません。
文明開化の後に建てられた建物ということもあって、室内には藩政期から受け継がれてきた和風の内装に洋風の調度品が置かれ、和洋折衷の雰囲気を醸し出しています。
最初に目にする「群青の間」
入口付近にある群青の間は、前田家の奥方御殿として知られる成巽閣を思わせる佇まいで、床の間や欄間を彩る鮮やかな青が、心の中の邪念を洗い流してくれるようです。
建物の一番奥の離れの間は欄間が緑に彩られているお部屋です。お部屋からは庭園が一望できる他、犀川沿いに広がる市街地を臨むことができます。また、離れの間のバルコニーには灰皿が置かれています。
このあたりは犀川沿いから寺町台地に向かって急勾配になっており、辻家庭園はその勾配を利用して作られています。
傾斜地には773本もの木々が植えられ、傾斜を利用した大滝が設けられています。そして、流れ落ちた水は渓流となって池に注ぎ込み、池では錦鯉がゆったりと泳いでいます。
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明治以降も金沢の文化を育てた旧家老家
辻家庭園は、藩政期に加賀八家のひとつに数えられた横山家が作庭した庭園です。金沢では明治維新によって藩主の前田家が東京へ移った後も、藩政期に大名並みの石高を誇っていた重臣の家系が金沢の文化に大きく貢献しました。
井上雪さんの著書『廓のおんな』には、明治から大正期にかけての東の廓(ひがし茶屋街)の様子が記されており、加賀藩の中核をなしていた本多家と横山家の豪勢な遊びぶりは有名だったそうです。
両家のご贔屓の芸妓さんには本多芸者、横山芸者という呼び名が付けられたほどの大旦那でした。豪遊によって金沢に伝わる伝統芸能が現代に受け継がれてきたわけですが、もう一つ、旧家老家の財力は屋敷や庭園にも使われました。
そして、当時の横山男爵が築いたのが『辻家庭園』です。
元々は横山家の迎賓館
辻家庭園は、横山一族の横山隆興氏が、兄の横山隆平男爵から援助を受けて建てられた迎賓館の庭園として作庭されたもので、辻家庭園のリーフレットには「前田家家老旧横山家迎賓館」と銘打たれています。
金沢に残る旧家・庭園は、日本庭園が多く見られるのに対して、明治期に作庭された辻家庭園は英国式庭園という様式が採られています。
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粋な富豪一族が築いた贅の極み
横山男爵は明治時代に尾小屋鉱山から掘り出される銅によって巨万の富を築いた人物で、「金沢は横山で持つ」とまで言われていました。
前述の『廓のおんな』では、横山大尽と呼ばれた横山一族は、後にも先にもない最上客であったと記されています。
また、芸妓に対して「こっちは高い金を払っているのだから、踊れ、唄え」というような強要はせずに、芸妓を遊ばせるために座敷を催しているような雰囲気だったとも記されています。
そのような粋な遊び方をする財閥が庭園を築いたわけです。
キャッチコピーは“金沢最後の名所”
当時のお金で20万円(現在の約40億円)の予算が費やされ、椿山荘(山形有朋別荘)や古川庭園(陸奥宗光別邸)を作庭した7代目・小川治兵衛が設計したとされています。完成当時は数万坪の敷地があったと伝えられています。
辻家庭園は明治末期から大正初期の作庭とされています。“されています”という表現が多くなるのは、この庭園がずっと個人の所有であったからです。
その後、尾小屋鉱山の経営不振によってこの庭園は横山家から小倉家へ移り、さらに1947年(昭和22年)に辻家に所有権が移り、2013年12月から一般公開が開始されました。ちなみに、一般公開時のキャッチフレーズは「金沢最後の名所」でした。
利用案内
辻家庭園
つじけていえん
住所:金沢市寺町1-8-48
TEL:076-201-1124
料金:見学のみ 500円、見学+抹茶&お茶菓子 1,000円
時間:夏季(3/1~10/15) 12時~18時/冬季(10/16~2月末)12時~17時
休館:毎週火・水曜日、年末年始
撮影:展示室および庭園の撮影OK
辻家庭園ホームページ
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