徳田秋声記念館の見どころ-稀代の恋愛小説家が甦る場所

金沢の美術館・記念館#12

金沢には明治から昭和にかけて活躍した三文豪と言われる作家がいます。徳田秋聲、泉鏡花、室生犀星です。市内には三文豪の記念館がそれぞれ設けられています。

3人の中で秋聲と鏡花はいずれも浅野川流域で育ち、同じ小学校に通いました。学年は秋聲がひとつ上でしたが、色々な資料を紐解くとお互いに顔は知っていたようです。この2人は後に東京で尾崎紅葉の門下生となります。

徳田秋聲記念館があるのは、浅野川に架かる梅ノ橋のひがし茶屋街寄りの袂です。梅ノ橋は浅野川大橋のひとつ上流の橋で、秋聲のみち鏡花のみちを結んでいます。ベージュに彩られ、黒い屋根瓦が敷かれた2階建ての建物です。

土塀の門を抜け敷地内に入ると、右手に展望デッキが設けられています。展望デッキからは女川と称される浅野川のゆったりとした流れを眺めることができ、さらに展望デッキから河原へと降りることができます。

展望デッキから浅野川の流れが一望できます
徳田秋声記念館の展覧会
・田村俊子生誕140年記念企画展「女流作家-田村俊子と秋聲」(11/10~3/16)
・常設展示



ひがし茶屋街の近くで育ちました

徳田秋聲は1871年(明治4年)に金沢で生まれました。生家は元士族でしたが、明治維新の混乱期の中で徳田家は職を失い、現在のひがし茶屋街のすぐ傍に移り住みます。

21世紀のひがし茶屋街は観光地化されていますが、当時は東の廓(くるわ)と呼ばれ、金沢で最高の格式を誇る花街でした。当然のことながら、秋聲少年の耳には旦那衆と芸妓さんとの色恋沙汰の噂が聞こえてきたことでしょう。

秋聲の作風は愛と憎しみ

秋聲は泉鏡花の紹介で尾崎紅葉の門下生となり本格的な作家活動に入ります。そして『黴』で人気作家としての地位を確立し、男女の恋愛をテーマに、微妙に揺れ動く男と女の心情を表現していきました。

この女と早く別れたいと思いながらグズグズと別れられない男と、この男には愛想が尽きたけど、もう少し金を引き出すまで耐えようとする女。これが秋聲の作風で、1939年(昭和14年)に『仮装人物』で第一回の菊池寛賞を受賞しました。

菊池寛賞は、菊池寛が秋聲を称えるために設けた賞です。同賞の受賞者には現在も正賞として懐中時計が贈られていますが、これは受賞当時に賞品は何がいいかと聞かれた秋聲が、懐中時計を希望したことにちなんで続けられているものです。

清潔感を感じる1階ロビー

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三文豪で最も知名度が低い秋聲

金沢の三文豪の中で、室生犀星は国語の教科書に載っていますし、泉鏡花については泉鏡花文学賞のニュースが毎年秋に報じられることから、金沢の人たちに知られているのですが、徳田秋聲は知名度が低いのが現実です。

自然主義文学である秋聲の恋愛小説は、男と女のありのままの感情を素直に表現するもので、通俗小説ともいえるカテゴリーであることから教科書に載るのはまず無理です。

また、恋愛小説は流行りモノということもあってか、一般の書店では秋聲の作品はほとんど売られていません。このことから秋聲に接する機会がないのです。

展示内容から伝わる学芸員の思い

三文豪の中で、徳田秋聲が最も知られていないことを記念館の人たちもよくご存知なのでしょう。三文豪の記念館で最もディスプレイに工夫が凝らされています。

中でも秋聲の代表作から5人の女性主人公にスポットをあて、和紙人形で再現するとともに映像で紹介する「秋聲が描いた五人の女性たち」のアトラクションは、秋聲を知らない人にも「読んでみたい」と思わせるものです。

この他、ミュージアムショップでは、秋聲記念館が自社出版で復刻した秋聲の小説が文庫本として販売されています。私も記念館で購入した『黴』ではじめて秋聲の世界に触れました。

出版に際しては、秋聲記念館の学芸員によって昔の文体が現代表記に改められていますので、とても読みやすくなっています。

梅の橋から眺める徳田秋声記念館

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川端康成氏からの賛辞

ノーベル賞作家の故川端康成氏は、1947年(昭和22年)の秋聲文学碑除幕式の前夜に行なわれた記念講演で、秋聲について次のように述べています。

「日本の小説は源氏にはじまって西鶴に飛び、西鶴から秋聲に飛ぶ。」

今では古典となっている源氏も西鶴も、世に出た当初はセンセーショナルな話題を引き起こしたことでしょう。秋聲が再評価されるのはもう少し先のことなのかもしれませんね。

徳田秋聲記念館の観覧料は一般・大学生が310円、65歳以上が210円、高校生以下は無料で、火曜日 (祝日の場合は翌平日)、年末年始、展示替えの期間は休館です。写真撮影については展示室での撮影は禁止で、受付け脇の休憩スペースのみ許可されています。

浅野川大橋から徳田秋聲記念館への途中にあります

利用案内

徳田秋聲記念館
とくだしゅうせいきねんかん
住所:金沢市東山1-19-1
TEL076-251-4300
料金:一般・大学生 310円、65歳以上 210円、高校生以下 無料
時間:午前9時30分から午後5時(入館は4時30分まで)
休館:火曜日 (祝日の場合は翌平日)、展示替え期間、年末年始
撮影:展示室の撮影NG
徳田秋聲記念館ホームページ

最寄りのバス停
・金沢周遊バス、路線バス「橋場町」徒歩4~6分
最寄りの観光名所
・ひがし茶屋街から徒歩3分
行き方の参考ページ
ひがし茶屋街への行き方

徳田秋聲記念館の周辺スポット

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2016年5月17日