少し古い話題になりますが、2025年3月9日付の北國新聞に、2020年に東京から移転した国立工芸館が、東京に残していた約2,000点の収蔵品を、金沢に移送したことが分かったとの記事が掲載されていました。
記事によると、4,000点に上るコレクションが全て金沢の国立工芸館に揃い、美術館機能の完全移転が完了しました。今後は展示会の幅が広がり、日本海側で唯一の国立美術館として、東京の本館からの独立に弾みが付きそうとのことです。
ご存じない方にご説明しますと、国立工芸館は東京国立近代美術館工芸館が移転したミュージアムで、金沢への移転と同時に、名称が国立工芸館に変更されました。

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全作品の移転により展示会が多彩に
国立工芸館では、2020年10月の移転に合わせて約2,000点の収蔵品を移送しました。残りの2,000点は東京分室や都内の民間倉庫で保管していましたが、東京から順次運び出し、昨年6月に全て金沢市内に移し終えました。
全ての作品が金沢にあることで、これまでは移送の負担などから開催しにくかった所蔵品展など、多様な作品展を開きやすくなります。また、東京からの作品移動に比べ経費や手間が格段に抑えられることは、組織運営で大きなメリットです。
さらに石川県内の美術館などへ収蔵品を貸しやすくなり、石川県民が工芸館を身近に感じる機会が増えます。
とりあえずは独立に向けて前進
記事によると、現在も東京国立近代美術館の「分館」に位置付けられる国立工芸館では、金沢移転後に研究員の増員などを通じて、さまざまな機能強化を図ってきたそうです。
今回の作品の移転業務でも、東京分室は昨年3月末で廃止とし、作品管理などのために雇用していた分室職員2人分を新たに石川で補充採用し、金沢での運営体制が強化されました。
国立工芸館を巡っては、石川県と金沢市では東京国立近代美術館からの独立が課題となっています。収蔵品の移送完了によって、独立に向けた取り組みが一層加速する可能性があるとのことです。

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7つ目の国立美術館を目指します
国内には、文化庁管轄の独立行政法人 国立美術館という組織があり、6つの国立美術館を所有・運営しています。現在は東京国立近代美術館の分館という位置付けの国立工芸館は、7つ目の独立した美術館を目指しています。
国内の国立美術館
施設名 | 入館者数(人) | 展示面積(㎡) |
国立工芸館 (金沢) | 152,923 | 703 |
東京国立近代美術館 (東京) | 808,638 | 4,459 |
京都国立近代美術館 (京都) | 154,637 | 2,604 |
国立映画アーカイブ (東京) | 93,538 | 1,365 |
国立西洋美術館 (東京) | 994,810 | 4,420 |
国立国際美術館 (大阪) | 287,976 | 3,811 |
国立新美術館 (東京) | 1,195,714 | 14,000 |

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独立への課題は展示室の面積
3月9日付の北國新聞には、国立工芸館が国内7つ目の国立美術館になるための課題として、来館者数の上積みが課題だと記されていましたが、私は、独立に向けた最大の課題は、展示室の面積の増大だと思っています。
上の一覧表のとおり、入館者数に関しては国立映画アーカイブを上回り、京都国立近代美術館に迫る入館者数を記録しています。石川県が、東京都や大阪府の10分の1程度の人口であることを考慮すれば、国立工芸館は健闘していると思います。
問題なのは展示室の面積です。2番目に小さい国立映画アーカイブの半分程度しか展示室がありません。東京国立近代美術館の6分の1ほどのスペースしかないのですから、分館に位置づけられるのも当然のことでしょう。

金沢偕行社の建物も展示室に
私は国立工芸館がオープンする際、2つある建物のうち緑色の旧金沢偕行社の建物に入ってみたいと思っていました。はじめて訪れた時に、係員から「金沢偕行社の建物は事務所なので入館できない」と言われて愕然としました。
どちらかを事務所にするのだったら、地味な旧第九師団司令部を事務所にすればと思ったものです。展示室が1つでもお腹いっぱいになれば良いのですが、私が初めて国立工芸館を訪れた時の感想は「物足りない」というものでした。
オープン当時、金沢に移転した国立工芸館の展示室は、東京の展示室よりも広いと言われていましたが、実際にはほんの少し広くなっただけです。東京国立近代美術館からすれば「工芸館もありますよ」という程度の展示室の規模です。
それならば、金沢に移転して工芸に特化したミュージアムとなったことで、こんなに広い展示室になりましたとアピールしなければならないはずです。

ケチったら今のままですよ
新たに国立工芸館の事務所を建てる土地の有無については、工芸館の裏手にはスペースがあります。現在は職員の駐車場への通り道になっていますが、駐車場を赤レンガミュージアムの職員駐車場と共用すれば事務所を建てられます。
仮に、裏手のスペースに事務所を建てるのが不可能でしたら、工芸館の前の芝生に事務所を建てて、地下通路で本館と繋げることも考えられます。景観を損ねるのでしたら、ガラス張りの事務所にしても良いでしょう。
石川県は工芸部門での人間国宝が10人で、国内最多なのが地元の工芸関係者の自慢です。東京都でも7人、京都でさえも6人しかいません。東京から金沢への移転決定の際には、石川県が工芸王国であることがキーポイントとなりました。
国立工芸館は建物の面積自体は約1,400㎡です。つまり、旧金沢偕行社の建物も展示室にすれば単純に2倍になります。金沢に工芸館を移転させた意義は大きいのですから、ケチケチせずに別の場所に事務所棟を作るべきでしょう。


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