2017年5月20日付の北國新聞に、泉鏡花が自らの書斎の机の前に祀り心の支えとした釈迦の母・摩耶夫人像が、今年の秋に金沢で初公開されるという記事が掲載されていました。
泉鏡花の遺族が、寄贈先の松竹(東京)に生誕地での公開を希望し、泉鏡花記念館での展示が決まったものです。
展示される摩耶夫人像は、鏡花が幼い頃に亡くした母の姿を重ねて金沢の仏師に造らせた像で、鏡花文学の核心とされる「母恋い」を映す貴重な遺品になると記事では伝えています。
歌舞伎座から泉鏡花記念館へ貸し出されます
摩耶夫人は釈迦を生んだ7日後にこの世を去ったとされています。鏡花の摩耶夫人像は高さ約25cmで、懐に赤ちゃんの釈迦を抱えています。
この像は、鏡花の姪で2008年に亡くなった随筆家の泉名月さんが所蔵していました。
その後、名月さんの遺族が、『天守物語』『海神別荘』『高野聖』などの鏡花作品を舞台化してきた歌舞伎俳優の坂東玉三郎さんに敬意を表し、摩耶夫人像を松竹・歌舞伎座に寄贈しました。2010年のことです。
そして、松竹では鏡花原作の上演に合わせて、摩耶夫人像を特別公開してきました。
金沢での初公開は、遺族の希望に加え、泉鏡花記念館の展示環境が整ったことから、松竹と泉鏡花記念館が協議をして実現の運びとなりました。
9歳で母を失った鏡花は、10歳の頃に彫金師の父に連れられ、日蓮宗行善寺(石川県白山市)で摩耶夫人像を見ましたが、後年、この時のことを「亡き母を思ひ慕ふ念いよいよ深し」と振り返っています。
関東大震災が発生した1923年(大正12年)に妻すずを伴って金沢に帰郷した際、鏡花は行善寺を再訪して像を拝み、卯辰山麓の下小川町(現東山2丁目)の仏師・宮保左慶に木像の製作を依頼しました。
翌1924年に発表した短編小説『夫人利生記』では、主人公の男に「(摩耶夫人像は)夢にも忘れまじき、亡き母の面影」と語らせています。
鏡花の摩耶夫人像は、9月30日~12月3日に開催される泉鏡花記念館の特別展「1917 大正6年の鏡花」で展示される予定です
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泉鏡花記念館の信頼性が高まっています
当サイトでは、5月12日付で、尾崎紅葉の直筆の書簡が泉鏡花記念館で公開されるという記事を掲載したばかりですが、また同記念館の嬉しいニュースをお伝えすることとなりました。
北國新聞の記事にも触れられているとおり、泉鏡花記念館の展示環境が整ってきたことで、ミュージアムとしての信頼性が高まってきたことが大きな要因と言えそうです。
全国の美術館・記念館では、他のミュージアムからの貸し出しで企画展を開催することがよくありますが、貸し出された際の状態を悪化させることなく返却することで信頼性が高まっていきます。
今回、歌舞伎座が泉鏡花記念館に所蔵品を貸し出すということは、それなりの信頼があったということになります。
私は、以前に『義血侠血』という作品を書店で探して見つからなかった時に、泉鏡花記念館を訪ねたところ、学芸員の方が奥から出てきて『義血侠血』が収録されている文庫本を教えてくれたことがありました。
そのような細かな心遣いが信頼性を高めていくのでしょう。
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