2025年2月28日付の北國新聞に、金沢の三茶屋街のひとつ・にし茶屋街が芸妓さんのオーディションを企画しているという記事が掲載されていました。
記事によると、今回のオーディションは、にし茶屋街の西料亭組合が開催するもので、花街でのオーディション開催は全国でも初めてです。全国で茶屋文化が衰退をたどる中、伝統を担う若手を金沢から発掘します。
にし茶屋街で日本舞踊を指導する西川流の西川千雅家元 (名古屋市) は、一見さんお断りに象徴される敷居の高いイメージがある花街で、閉鎖性を断ち切り、減少する伝統芸能の担い手を広く募集しようと企画したと語っていました。

▼
募集対象は18歳~30歳の女性
オーディションの募集対象は、金沢芸妓の継承に意欲のある18歳から30歳くらいまでの女性で、西川家元、にし茶屋街の女将、現役の芸妓さんらが審査員となります。応募は2月28日から専用サイトで受け付けます。
日本舞踊や雅楽などの経験は問いません。選考においては、金沢市の在住者や、芸能活動、接客、語学に長けた経験者を優遇するとのことです。書類選考を経て3月末ごろにオーディションを開催する予定です。
西川家元によると、これまで芸妓の求人は、紹介や女将によるリクルートに限られてきました。にし茶屋街ではここ10年ほど若手が育っておらず、経験豊富な現役女将が不在となっています。

▼
金沢の女性は芸妓志望を口に出せない
新人芸妓をオーディションで発掘するというにし茶屋街の試みは、金沢を故郷とするものから見てとても興味深いものです。最も興味深いのは、はたして地元の女性の中からオーディションに応募する人がいるのだろうかという点です。
北陸新幹線の開業以降、金沢の三茶屋街では、新人芸妓のお披露目が多く見られるようになりました。しかしながら、新花さんとしてお座敷デビューした17名のうち、13名が石川県外の女性でした。
今も金沢では「芸妓=夜のお仕事=いかがわしいこと」というイメージが残っていることから、芸妓の仕事に興味があっても、世間体を気にして自分の願望を声に出せないのでしょう。また、家族から反対されることもあるのでしょう。
北陸新幹線以降の新花さん
以下に、北陸新幹線の開業以降にお披露目された新人芸妓をまとめてみました。一覧をご覧いただくと、石川県外の女性が多いことが分かります。ちなみに、以下の17名の中で現在も芸妓さんを続けているのは8名です。
・2015年7月 ひがし「八の福」佳丸さん=24歳・松本市出身
・2015年11月 主計町「まゆ月」凛さん=21歳・金沢市出身
・2016年3月 ひがし「藤乃弥」七葉さん=18歳・佐賀市出身
・2016年5月 にし「西泉家」幸ぎくさん=22歳・京都市出身
・2016年6月 主計町「仲乃家」うた子さん=18歳・横浜市出身
・2016年7月 ひがし「八の福」杏花さん=24歳・横浜市出身
・2017年5月 主計町「えんや」一駒さん=20歳・北海道出身
・2017年5月 にし「明月」虎太郎さん=19歳・石川県出身
・2017年10月 ひがし「春の家」あかりさん=25歳・鳥取県出身
・2018年4月 ひがし「八の福」紫乃さん=27歳・金沢市出身
・2019年3月 主計町「まゆ月」咲和さん=20歳・福島県出身
・2019年10月 ひがし「春の家」かや乃さん=18歳・千葉県出身
・2019年11月 主計町「仲乃家」千寿さん=21歳・仙台市出身
・2022年7月 主計町「まゆ月」寿珠さん=24歳・宇都宮市出身
・2022年11月 ひがし「八しげ」美紅さん=22歳・金沢市出身
・2023年2月 ひがし「八の福」以とさん=23歳・東京都出身
・2023年10月 ひがし「八の福」万琴さん=19歳・富山市出身

県外女性は「ひがし・主計町」へ
上記の一覧を見て分かるのは、石川県外から金沢芸妓を志してくれた女性のほとんどが、観光スポットとなっているひがし茶屋街と主計町茶屋街を選んでいることです。現代的な街並みにある「西」には魅力を感じないのかもしれません。
にし茶屋街では、県外出身の新花さんは、2016年5月に当時の西泉家でデビューした幸ぎく(こぎく)さん以来、9年近くも出ていません。このこともあって、にし茶屋街で芸妓オーディションを開催しようとなったのでしょう。

▼
定着してくれるのかが疑問
とても興味深い芸妓オーディションですが、私は、採用された女性が定着してくれるのかを不安視しています。芸を売るのが仕事とは言っても、基本はお酒が入る席での夜のお仕事ですから、女性から見て理不尽なことも経験すると思います。
伝統芸能を継承するという夢と、酒に酔った男性客を相手しなければいけないという現実のギャップ。この10年間にお座敷デビューした17名を見ても、半数以上が花街を去っています。今の商売のシステムでは難しいのではないでしょうか。
今こそ「一見さんお断り」を脱却
私は、花街の慣習となっている「一見さんお断り」をやめる茶屋街があるとすれば、にし茶屋街だと思っています。なぜなら、にし茶屋街は「東」への強い対抗心を持っているからです。そのことが進取の気性を育んできました。
一見さんお断りから脱却して、お座敷を「伝統芸能を見せる場」としてアピールすれば、自ずと、夜の旦那衆の遊びの場というイメージからも脱却できることでしょう。
そして、お茶屋のお座敷が純粋に伝統芸を披露する場となれば、金沢で生まれ育った女性も、花街を仕事場にしようと考えてくれるはずです。

KANAZAWA Topics
にし茶屋街の関連ページ
にし茶屋街の見どころ
・金沢の三茶屋街で最多の芸妓を擁する「にし茶屋街」
・時代の寵児・島田清次郎を輩出した「にし茶屋街」
・落雁、甘納豆、豆腐アイス。にし茶屋街はスイーツ街
・華の宿はにし茶屋街の隠れたお薦めスポット
にし茶屋街への行き方
・にし茶屋街への行き方
・近江町市場からにし茶屋街への行き方
・金沢21世紀美術館(兼六園)からにし茶屋街への行き方
・長町武家屋敷跡からにし茶屋街への行き方
にし茶屋街の周辺スポット
室生犀星記念館 | 妙立寺(忍者寺) | 金沢建築館 | W坂 | 犀星のみち | 片町
にし茶屋街から他の観光名所へ
金沢21世紀美術館(兼六園)へ | 近江町市場へ | 長町武家屋敷跡へ
主要な観光名所は8つ+金沢駅
金沢駅 | 兼六園 | 金沢城公園 | ひがし茶屋街 | にし茶屋街 | 主計町茶屋街 | 長町武家屋敷跡 | 金沢21世紀美術館 | 近江町市場
▼