56年ぶりに東京に聖火が灯る2020年。新春の金沢の地元メディアでは、金沢城の「二の丸御殿」の復元が大きな話題で、地元紙の北國新聞では、元旦、3日、7日の一面トップが二の丸御殿でした。
その中で1月7日付の一面では、石川県庁が、金沢城二の丸御殿の復元工事に向けた基本方針に着手することを、石川県知事が表明したというものでした。
これは、御殿の最大の謎とされてきた内外装の詳細を記した資料が、2019年に確認されたことを受け、谷本石川県知事が県庁で開いた年頭会見で明らかにしたものです。
記事によると、復元は藩主が政務を執った「表向(おもてむき)」を優先し、段階的に進められる可能性が大きく、谷本知事は「貴重な資料を念頭に、順序を踏みながら復元整備を進める」と語りました。
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地元紙の元旦の一面は二の丸御殿
二の丸御殿は建坪約3,200坪(1万600㎡)で、藩政を司る「表向」、藩主らの住居空間である「御居間廻り(おいままわり)」、女性の住居空間の「奥向(おくむき)」で構成されます。
この中で、表向は面積が最も大きく、御殿の顔に位置付けられてきましたが、復元にあたっては、加賀百万石の威容を伝える豪華絢爛な内外装の再現が課題とされてきました。
今回、二の丸御殿が最後に再建された翌年の文化8年(1811年)に、前田家の御大工頭が作成した「二之御丸御殿御造営内装等覚及び見本・絵型」が、金沢市立玉川図書館の加越能文庫で確認されました。
そして、この史料によって、内外装に使われた材料や意匠、寸法などがほぼ明らかになりました。
谷本知事は「復元という夢の実現に向け大きく前進した」と語り、「検討委で『表向の復元整備の可能性がさらに高まった』となれば、優先して復元する部分も含め、新年度に基本方針を策定したい」と述べました。
一方で、表向の主要部分だけでも1千坪に及ぶことから、「整備は10年、20年といったスパンで考えないといけない。県民には完成した部分からご覧いただくことになるだろう」とのコメントがありました。
石川県は、年度内にも検討委を開催し、復元に向けた最終報告を取りまとめます。
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職人の街・金沢の“こだわり”の象徴
金沢城の二の丸御殿の復元は、石川県の人たちにとっては悲願とも言える事業です。
しかしながら、二の丸御殿を写した写真が数点しか残っておらず、歴史に忠実に復元するのは難しいとのことで、5年ほど前までは本格的に検討するところまでも行っていませんでした。
その後、2015年に詳細な平面図が見つかりましたが、襖、欄間、金具などの内装についてはわからなかったことから、当時、谷本知事は「現状では復元することはできない」との見解を示していました。
2019年に内外装の詳細に資料が見つかったことは、復元への大きな前進です。
金沢城は、2001年に菱櫓・五十間長屋・橋爪門続櫓が復元されたのを皮切りに、2010年に河北門が、2015年に橋爪門が復元されました。
現在の金沢城のシンボル・五十間長屋が復元できた理由として、三の丸広場からの写真が残っていたことと、重要文化財の三十間長屋が、1858年(安政5年)のままの姿をとどめていたことが挙げられます。
また、河北門と橋爪門についても、1788年(天明8年)に建てられ、重要文化財に指定されている石川門が残っていたことから、当時の建築様式を参考にすることができました。
二の丸御殿については、藩政期の建築様式の参考となる建物がありません。
また、五十間長屋、河北門、橋爪門は防御施設だったことから内部に何もなく、極論すると建てるだけで良かったのですが、二の丸御殿は芸術性の再現も必要ですので、見切り発車をするわけにもいきません。
このことから、これまでは二の丸御殿の復元に向けての本格的な動きはありませんでした。
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金沢は良くも悪くも職人の街
金沢で生まれ育った私から見ると、二の丸御殿に関しては、職人の街・金沢のこだわりが良い方向に出ていると思います。
私は、県外の方を金沢城にご案内することがあります。二の丸広場に屋外展示されている、二の丸御殿の写真と平面図をご覧になった方の中には、石川県のこだわりに共感される方もいらっしゃれば、「作ってしまえばいいのに」とおっしゃる方もいます。
在りし日の二の丸御殿を誰も見ていないわけですから、作った者勝ちという視点も確かにあります。建てた後に批判が出ても「これが藩政期の姿ですよ」と言い張れば通るかもしれない話しです。
私は金沢で生まれ育ち、大学進学を機に東京に出て、東京で30年暮らして金沢に戻ってきました。
正直に言いますと、金沢に受け継がれてきた職人気質が街の発展を妨げてきたと思います。また、街中に笑顔がなく、時流に乗れず気むずかしくなった職人の雰囲気を感じることもあります。
ただ、忠実に再現できる状態にならない限り復元しないという、二の丸御殿に対するこだわりだけは間違っていないと思います。
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