金沢の三茶屋街のひとつ・主計町茶屋街に新しいお茶屋「み笑(みしょう)」がオープンしました。女将は同じ主計町のお茶屋の一葉(ひとは)に籍を置いていた笑弥(えみや)さんで、主計町では20年ぶりの新しい看板となります。
2022年3月21日付の北國新聞によると、笑弥さんは金沢学院大学英米文学科を卒業後、映画館「シネモンド」の劇場支配人を経て、2006年に芸妓の道に入りました。
コロナ禍でお座敷やイベントがほとんどない状態が続き、芸妓の数も減る中で「自分が積極的に動くことで、茶屋街を少しでも明るくしたい」と独立を決意したそうです。み笑が加わり、主計町のお茶屋は計5軒となります。
お店は浅野川に面した通りで「主計町」の石碑の前に位置しています。かつて茶屋として営業し、一時は飲食店となっていました。「この場所を茶屋として復活したい」との思いもあったとのことです。
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2階がお座敷で1階がバー
み笑は2階はお座敷、1階はバーとして営業します。浅野川沿いの桜が見えるお座敷は加賀藩がルーツとされる群青の壁が鮮やかで、茶室としても使える部屋も備えました。バーでもお茶を点てられるしつらえとしました。
笑弥さんは茶道の心得があり、毎年9月の金沢おどりでは、裏千家今日庵業躰の奈良宗久さんの社中が茶席を設け、笑弥さんもお点前を披露しています。
店名の「み笑」は笑弥さんの一字を取り、言葉を用いず心から心へと伝えることを意味する禅語「拈華微笑(ねんげみしょう)」から奈良さんが名付け、一葉の女将・たか子さんがしたためた文字を看板や名刺に使いました。
笑弥さんは、お店では踊りや笛などの芸に触れる機会を増やし、今後は若い芸妓を育てることも考えています。
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20代の頃はジャズシンガーでした
み笑がオープンした場所は、フレンチレストランの「流寓」があった場所と言えば地元の方には分かりやすいかと思います。
私は先週、桜が満開の主計町を訪れたのですが、その時に「金沢の暴れ馬」の異名を持つ元テレビ金沢アナウンサーの馬場ももこさんと、地元ミュージシャンのエイトMANさんが、み笑の前で番組ロケの準備をしているところを目にしました。
その番組は北陸放送 (MRO)の「絶好調W」で4月13日 (水)に放送されました。番組では、シネモンドの支配人時代にMROテレビの取材に答える若き日の笑弥さんが紹介されていました。また、支配人になる前はジャズシンガーだったことも映像とともに紹介されました。
ちなみに、笑弥さんが支配人を務めた『シネモンド』は金沢で唯一のミニシアターで、地元ではコアな映画ファンの間で根強い人気があります。
新花さんの発掘に期待です
コロナ禍によって、金沢の花柳界は大きな打撃を受けています。お座敷が激減したことで芸妓さんが次々に辞めていきました。金沢伝統芸能振興協同組合と金沢市観光政策課の制作サイト「金沢芸妓」に掲載される芸妓さんの顔写真が、アクセスするたびに減っています。
これは花柳界に限ったことではありませんが、どの都市のどの業界や会社であっても、壊滅的な打撃を受けた組織を立て直す時の救世主となるのは、他業種での実務経験者というのはよくある話です。
このことから、私は、ジャズシンガーからミニシアターの支配人を経て、30歳を過ぎてから芸妓の世界に飛び込んだ笑弥さんには本当に期待しています。特に、社会経験のある20歳過ぎの新花さんを育ててもらいたいものです。
私は、これからの金沢の三茶屋街は「一見さんお断り」の慣例を破棄して、女性や若いサラリーマンが芸を楽しむ環境を創出すべきだと考えていますが、笑弥さんなら、これまでの常識にとらわれない経営を推進していくのではないでしょうか。
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五木寛之氏の小説のモデルかも
2008年に発表された五木寛之さんの小説『主計町あかり坂』(のちに『金沢あかり坂』と改題)は、主計町の近くで育った主人公の凜が芸妓として力強く人生を歩んで行く物語です。
幼少期に祭り笛の名手だった父親から横笛の手ほどきを受けた凜は、中学時代に母親を、高校時代に父親を失い、就職した一流ホテルのフロント係の仕事を祖母の介護を理由に辞めます。そして、月に1~2度の『シネモンド』での映画鑑賞を唯一の贅沢としながら、パートで職を転々とします。
その後、アルバイトとして地元テレビ局の制作アシスタントの職を得た凜は、フリーの映像ディレクターの男性と恋に落ちるものの失恋し退職。ほどなくして祖母が他界。遺品整理の途中で父親が残した竹笛を見つけ、笛を極めたいと思い立ち主計町のお茶屋・一葉で芸妓となります。
笑弥さんが主計町の一葉で芸妓になったのが2006年。五木氏の小説が発表されたのが2008年で、主人公の凜が芸妓となるのも主計町の一葉。さらに、一葉に在籍していた頃の笑弥さんは影笛(闇笛)で客をもてなしたと聞きます。
私は密かに、小説『主計町あかり坂』の主人公は笑弥さんがモデルなのかなと思っています。
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